2016年12月21日水曜日

【書評】行きつ戻りつ――プラープダー・ユン「新しい目の旅立ち 第一回」(訳:福冨渉)


ぼくはここから始めるべきではない。
始点を巡って逡巡する「新しい目の旅立ち」の導入文に、私は鷲掴みにされた。
 福冨渉氏による紹介によると、本テクストの著者であるタイの作家プラープダー・ユン(ปราบดา หยุ่น、1973-)は、「他者や周囲に興味を持たない『個人』」を描くことで「タイのポストモダン文学」「新世代の代表」として注目を集めている。私はタイのポストモダンについてどころかタイの「モダン」、そしてそんなものがあるのかどうかさえ知らない。東浩紀主催のゲンロンカフェ、および彼らの編集する言論雑誌『ゲンロン』でタイの作家をなぜ取り上げるのか、その文脈も知らない。それについて書く、このブログ自体の出発点もハッキリ自覚していない。何度かブログを立ち上げては、「作ってみました。よろしくお願いします。」と宣言しては、そして一週間も経たないうちに更新が途絶えるということを何度繰り返したことか。
 プラープダー氏が思索の出発点を慎重に審査するのとは反対に、このブログは後付け的に出発点が見出せるよう、テクストについて語りたいという進行形的な意志の上に成立するようにしたい。この意図もまた、後付けである。